冬眠生物学2.0

哺乳類の冬眠は、古くから知られているにも関わらず、その生理機構の多くは未解明な魅惑的な現象です。哺乳類の多くは寒冷下でも体温を37ºC付近に維持し活動が可能です。これは体内で熱産生を行い体温を一定に保つ恒温性を有するためです。しかし、熱産生のエネルギー源である食料が枯渇し寒冷に見舞われる季節には、体温維持のためのエネルギーコストが問題となります。こうした寒冷・飢餓といった危機的環境下において、積極的に熱産生と代謝を抑制することで消費エネルギーを削減し、通常の恒温性から逸脱した低体温となった状態で生き延びる現象を、休眠(Torpor)と呼びます。この休眠が数ヶ月に渡り繰り返され厳しい季節を乗り越える現象が、冬眠(Hibernation)です。ヒトはこうした冬眠・休眠は行えませんが、冬眠・休眠現象自体は霊長類を含めた哺乳類のあいだで幅広く観察されます。そのため、哺乳類が普遍的に備える恒温性機構のわずかな変更で冬眠・休眠状態が誘導されるとも考えられます。

本学術変革領域研究A「冬眠生物学2.0」では、未解明のまま残されてきた哺乳類の冬眠・休眠の謎に対し、その解決への突破口を有するさまざまな分野の研究者が結集し協働することで、冬眠・休眠の制御・達成原理とその際の生体応答機構の理解、さらには既存の枠組みでは導出できなかった新たな知見の獲得を目指します。