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ブログリレー(4) 榎木亮介

ブログ2024-06-11

冬眠研究への誘い 

自然科学研究機構 生命創成探究センター/生理学研究所・榎木 亮介

 

若かりし大学生だった頃、旅するのが好きで、長期の休みの度にアジア、中東、アフリカなどバックパック担いで放浪していました。大学院時代には、指導教官の寛大さに甘えて、研究と旅を繰り返すという、今考えると非常に自由な生活を送っていました。研究者の道を選んだ理由の一つは、世界中を仕事で訪問でき、長期滞在もできるかもしれないという短絡的な考えもありました。博士号を取得後は、英国ロンドンとカナダでポスドク生活をして、帰国して北大に着任しました。異動を繰り返し、現在は岡崎で研究をしていますが、これまで国内外あわせて合計7箇所で研究を行ってきており、当初の夢は叶ったと言えるかもしれません。いま現在(2024年6月)はワシントン大学セントルイスに長期滞在中で、これも旅好き故なのだろうと思います。 


私はもともと研究者を目指していたわけではなく、人生の重要な時期に導いてくれる方々の出会いがあり今の私があります。大学入学直後に、神経-グリア細胞のカルシウムイメージングのパイオニアである工藤佳久先生に出会い、脳科学の面白さに誘われるように研究の道に入り込みました。大学院時代や研究留学、北大時代にも良いタイミングでの出会いあり、今の私をかたち作っています。そして本題の冬眠研究ですが、北大の電子科学研究所に在籍していた際、隣の低温科学研究所に冬眠ラボ(山口良文さん)があり、突撃訪問したり、講演して頂いたりして、交流が始まりました。また面白いことに、学内だけでなく(学内バスとかセミナー会場とか)、学外(出張先のホテル、助成金授与式、はたまた普通の交通機関など)で山口さんとの遭遇率が異常に高い時期があり、なんというかこれは運命か??などと思うように…。その後、私が北大から岡崎へラボごと移籍し物理的に離れてしまったため、自前で冬眠研究をするのは難しいかなと思っていました。ところが、岡崎では富永真琴さんとご近所となり、また同時期に文科省の学術調査官となり富永さんの温度生物学領域を担当することになりました。富永領域の最終会議に調査官として参加していたのですが、QIH論文の発表直前の櫻井さんの講演に大変な衝撃を受け、調査官の仕事をそっちのけで班員だった砂川さんらと話し込みました。その後ありがたい事に、学術変革Bのメンバーにお誘い頂き、採択されたことが決定打となり、冬眠研究に本格的に参画することになりました。 


山口さんのブログリレーにもあるように、冬眠研究は時間と労力がかかるため、若者の新規参入を妨げてきたところがあるかと思います。岡崎では長期の研究プランを考えられるポジションとなり、これが冬眠研究に参入する大きな後押しともなりました。そうでなければ、論文がでるまで時間がかかる冬眠研究は、日本のこのご時世のキャリアパスの熾烈さを考えると、怖くて始めることも難しいように思います。ところが最近、ご存知QIHマウスのブレイクスルーによりマウスモデルが使えるようになり、遺伝学や神経回路解析、オミクス解析などのハードルがぐんと下がりました。なかでも冬眠様状態を任意のタイミングで引き起こせるようになったことは非常に大きいです。まさに「冬眠研究が熱い」時代の黎明期であると感じています。 


冬眠中のハムスターを自分の手のひらに乗せ、その冷たさを直に感じると、生命の神秘に触れたような、知的好奇心を揺さぶられるような感覚になります。また同時に、これはマウスとはやはり異質の現象で、冬眠を知る為には深冬眠動物をみなければならないのでは、という想いも湧き上がります。そういうわけで、いまはマウスとハムスターの両方を使って研究を進めており、両者の共通点、相違点も探究しています(やはりハムスター実験は圧倒的に時間がかかります)。冬眠研究の魅力は、その基礎生物学的な面白さに加え、ヒト人工冬眠や医療への応用可能性の未来が広がり、そして生と死の狭間を探究することで「生きているとは何か」という究極の生命科学の問いに繋がることと考えています。冬眠には、未知の現象やメカニズムが沢山あり、未開拓のブルーオーシャンが広がっています。学変B→学変Aと来て、公募班が加わり研究仲間が増えてきて、お祭り前夜のような感覚でしょうか。これからの研究の展開と、そして出会いを、大変たのしみにしている所です。

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