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ブログリレー(7)  渡邊 正知

ブログ2026-07-20

なぜ私は冬眠動物を追い続けるのか
 

福山大学・渡邊 正知

 

 私の母は薬剤師資格を持つ研究者でした。小学生の頃、母の研究室を訪れたことがあります。何をしていたのか詳しくは覚えていませんが、実験器具や試薬が並ぶ空間に不思議な魅力を感じていました。また、母と通った国立科学博物館では、入り口近くにあったフーコーの振り子を飽きもせず眺めていました。なぜ振り子の振れる向きが変わるのか。そんなことを考えていたように思います。もう何年も前のことなので詳細は曖昧ですが、小学校の夏休みの自由研究では、炎天下で濡れた布を何度もはかりで量りながら布の種類と乾燥速度の関係を測定したのを今でもよく覚えています。気になったら実験して確かめてみる、そんな子供だったのかと思います。当時はペットとしてハムスターを飼育していましたが、まさかその動物が冬眠することもおそらく知らず、ましてや将来自分が冬眠研究に没頭するとは夢にも思いませんでした。しかし今振り返ると、「不思議な現象を自分で確かめたい」という気持ちは、この頃から変わっていないように思います。


 私はもともと冬眠研究者ではありませんでした。学位取得後は、てんかんなどの神経疾患やタンパク質翻訳後修飾の研究に従事してきました。神経科学の研究者として長く抱いてきた疑問があります。それは「神経細胞はなぜ脆弱なのか?」という問いです。神経細胞がなぜ障害され、なぜ死に至るのか。その原因を紐解くことで脳神経疾患の病態が理解できるのではないかと考えていたのです。ところがある時、冬眠動物の虚血耐性に関する論文を読んで、「え?この状況で死なないの?なんで?・・・」。それからの私の興味は、「なぜ死ぬのか?」から「なぜ死なないのか?」に変わっていった気がします。


 冬眠研究を始めてからは、それまでの常識が何度も覆されました。神経科学では、低酸素や低体温は神経機能を低下させ、場合によっては不可逆的な障害をもたらすものとして扱われます。しかし冬眠動物は、体温を著しく低下させ、代謝を極限まで抑えた状態から再び覚醒し、何事もなかったかのように活動を再開します。私たちが「障害」と考えている現象の裏には、まだ見ぬ強力な保護機構が存在するはずです。今はその問いを起点に、どうやって安全にかつ能動的に低体温を制御するのか?そして、低体温下ではどのような神経活動がどのような制御下で行われているのか?そんな世界に魅了されています。私自身は、これまで培ってきたタンパク質の機能制御の知見をベースに、低温という過酷な環境下で神経細胞がダイナミックにその状態を変化させる、未知の分子メカニズムを解き明かしたいと考えています。


 地方の私立大学で研究を続けることは決して容易ではありません。研究資源が限られる中で試行錯誤の連続です。しかし、小学生の頃に炎天下で布の重さを量っていた自分を思い出すと、研究の本質は意外と変わっていないのかもしれません。与えられた条件の中で工夫しながら、「本当にそうなのか」を確かめ続ける。その繰り返しの中に、研究の面白さがあるように思います。


 フーコーの振り子を眺めていた頃も、あの炎天下で布の重さを量っていた頃も、そして今、冬眠ハムスターを相手に実験している現在も、私の根底にある性格はあまり変わっていないようです。気になったら自分で確かめたくなる。「なぜ死ぬのか」を追っていた私は、今では「なぜ死なないのか」を追っています。冬眠動物は、今でも私に次々と新しい「なぜ?」を投げかけてきます。おそらく私は、その答えを知りたいからだけではなく、その謎そのものに魅了されているのでしょう。その問いがある限り、私はこれからも冬眠動物を追い続けるのだと思います。

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